テーマ:ギャグ受胎告知 のえるさん
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「坊ちゃま・・・。坊ちゃま・・・」
懐かしい声が聞こえる。
かずえ・・・。かずえの声だ。
「かずえ?かずえか?」
「ぼっちゃま。お懐かしゅうございます。かずえでございます」
・・・何故だろう?感動の再会なのに、違和感を感じる。
かずえの背中から羽根が生えていて、頭の上には輪が浮いている。
でも着物姿なのが妙にシュールだ。
まるで・・・。
「・・・天使みたいだな、かずえ?」
「かずえは昇天して天使になったのです、ぼっちゃま」
衝撃の事実だ。かずえが天使になっていた。
「かずえは守護天使となって毎日ぼっちゃまを見守っています」
そうなのか、ありがとう。
「ぼっちゃま、今回かずえは重大な任務を神様から受けて参りました」
「??どうしたんだ??」
「ぼっちゃま・・・・。実は・・・受胎告知、でございます」
・・・・ああ、キリスト教の聖母マリアの話か。
「ぼっちゃま。ぼっちゃまも、処女懐胎でございます」
・・・・・はぁ?
「かずえ。・・・・俺は男なんだが?」
「百も承知です、ぼっちゃま」
・・・・・。見詰め合うこと数秒。
「無理無理無理!!かずえ、いくらなんでも無理!」
「ぼっちゃま!」
「悲しそうな顔しても無理だ、かずえ!」
こればかりは引く訳にはいかない。
「ぼっちゃま!ガブリルかずえはちゃんと受胎告知しました!しましたからね!絶対ですよ!?ぼっちゃまのお子様はそれはそれは可愛らしいでしょうね!うふふ・・・。それではアデューーーです!!」
「待ってくれ、かずえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
気がつくとそこは自分の部屋だった。
そうか、夢か・・・。
「・・・・しかし・・・。変な夢だったな・・・」
その時の俺は簡単に流してしまった。
だってそうだろう?
実は本当にその時自分が妊娠してて体調不良で病院に行ったら「ご懐妊ですね」なんて言われるなんて、信じられないだろう?
周囲からは父親は誰だとか言われても身に覚えがないから言い訳も出来ないし。
父親候補が勝手に名乗り出てくるし!!
それよりなんで周囲は俺が妊娠しているおかしさを追及しないんだ?あからさまに受け入れてるんだ?おかしいのは俺なのか?
誰か、助けてくれ・・・!!
「うふふ・・・。ぼっちゃま、すべては神様の思し召しですv」


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テーマ:シリアス受胎告知 芝木さん
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最初の違和感に気付いたのは随分前だった。


身体の不調が続く日々。
コンディション管理が出来ていないのだろうかと自省し、静養するのだが一向に回復する兆しは見られなかった。
こんな事もあるのだろう。
そう思ってその時はあまり気にしなかった。

イライラする
熱っぽい
気持ちが落ちつかない
自分の体のコントロールがうまく出来ず天城はサッカーすらもままならない日々が続いた。

そんなある日の事だった。

「うっ……」

急激な吐き気を催してトイレにかけこむ天城。
とりあえず今朝食べた物を全部戻しぜいぜいと息をついた。

まるでドラマのワンシーンのようだ。

あれは女性が妊娠に気付く兆候で、自分には関係ないのだけど、と自嘲する。

しかし体調がすぐれないのは事実。このままではサッカーにも支障が出るので天城はとうとう病院にいくことにした。
近くの病院に向かい診察室で症状について話した。
すると医者は神妙な顔で「もう少し検査をしましょう」と言った。

もしや深刻な病気なのだろうか。一抹の不安が天城を襲う。
しかし彼に下された診断は予想を遥かに上回るものだった。

「妊娠しています」

妊娠
それは女性が子を成したという事。

「………は?」

耳を疑った
自分は男で、妊娠なんてできるはずもなくて、生物学上ありえない事である。
相手もいないし思い当たる節もない。
一体この医者は正気だろうか。

しかし医者は真剣な眼差しだった。

「冗談ではありません。貴方は妊娠3カ月に入っています」

それからどうやって家に帰ったのか、覚えていない。



部屋のベッドに倒れ込んだ天城。
無意識に手は腹部へとおさえられていた。

妊娠

自分には縁のない事だと思っていた。

いや、いつかは誰かと結婚して、そういう事もあるだろうとぼんやりとしたビジョンがないこともなかった。
ただ妊娠するのは『相手』であって、『自分』ではなかった。
それは世の中の男性全てがそうだろう。

(どうしよう)

ただその思いだけが心を占める。
相談などできるはずもない。
母や妹には絶対に言えない。そもそも信じてもらえるかどうかも怪しいものだ。

男が妊娠するとかありえない。
でもそのあえりない事が自分にありえてしまった。

気持ち悪い
怖い
自分は男だ
あるはずがない

ただ、医者に見せて貰った写真には確かに自分の腹の中に子供の像が映っていた。

「おれは……」

Pulllllll

携帯が鳴って、ビクリとしつつディスプレイを見る。
発信者の名前を見てすがるように通話ボタンを押した。

『あ、天城?いきなりごめんね。今度遠征でそっちの近くに行く事になったんだ。  よかったら…』
「風祭……」
『?何かあった天城。声が暗いよ』

天城が相談出来る人なんて、彼ぐらいしか思いつかなかった。

「俺、妊娠した」

風祭が携帯を落とした音がした。

『天城、彼女いたの?』
「いや。妊娠したのは俺だ」

再び風祭が携帯を落とした。

『………僕の記憶では天城、男だったと思うんだけど』
「ああ、俺も男だと思ってる」

でも妊娠したんだ。
天城の声は震えていた。
風祭も冗談でないと理解したのか再びの沈黙の後、ようやく口を開いた。

『よくわかんないけど、天城親になるんだよね。それってすごい事だと思うよ』
「風祭?」
『えっと、僕両親が小さい頃に死んじゃったから。本当の親の事よく知らないけどすごく大切にしてくれていたらしいんだ。それって結構嬉しい事だと思うからさ。
 誰かの親になれるって事は素敵な事だと思うよ』

たどたどしい、けれど彼なりの励ましの言葉。
その声を聞いていると天城も自分の心が少しずつ穏やかになっていくのを感じた。
やはり彼に話して良かった。

「ありがとう風祭。話してよかった」
『僕に出来る事があったら言ってね!なんでも協力するから』
「ああ」

通話を切る。
携帯を脇に置きそっと腹部に手を当てた。
この中に自分とは違う命が宿っている。
母も今の自分と同じ気持ちだったのだろうか。

「……よし」

まずは母に話して見よう。

そう決心して立ち上がる天城。
自分を妊娠した時母はどんな気持ちだったのだろう。
色々な思いを抱えつつ、天城は歩き出すのであった。



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